『ある星の汽車』|あらすじも結末も知らずに読んでほしい絵本

あらすじも結末を知らずに読んでほしい絵本記事のアイキャッチ画像(夜空)

ネットを開くと、本もドラマもスポーツも、見る前から内容や結末を調べることができます。 思いがけず目にしてしまうことも多いのですが、今回はぜひネタバレ厳禁で楽しんでほしい絵本の紹介です。
元出版社編集者で、現在は書店で児童書を担当する「いとの」が、大人の方にこそじっくり読んでほしい一冊をお届けします。

書店員の仕事は本の陳列・販売だけではありません。担当ジャンルの書籍の発注も、大切な仕事です。
新刊案内や、季節、時代の流れにあったフェアの提案書を手に、出版社の営業の方が次々とこられます。さらに直接来られない場合は、メールや郵便、そしてFAXでの営業があり、レジ対応や棚の整理など店舗業務の合間を縫うように、その対応に追われます。(FAXがまだ山のようにくる職場があるのだと、初めて書店の事務所に入った時はびっくり。業界全体の改善点はまだまだありそうです…)

観察していると、同僚の書店員でもおのおのカラーがあり、営業さんへの対応はさまざま。 私はというと、営業の方からじっくり話を聞いて発注数を決めることに喜びを感じます。制作の裏話が聞けた時には、「書店員になってよかった」としみじみ。その想いを聞けるかどうかが、棚づくりの決め手になっています。

ですが時折、先に絵本の情報を頭に入れず、本が出来上がった時にまっさらな気持ちで読みたい。そう思う絵本に出合います。そんな直感が働いた時には、せっかく持ってきてくれたプルーフをじっくり読まず、「楽しみは取っておきます」と正直にお伝えします。書店員としてではなく、読者としての感動を優先させて読む方が、きっと正解。そのリアルな心の動きが、POPやことばにして伝える時に、滲み出ると信じているからです。

書店員だってまっさらな気持ちで絵本を読みたい時がある!

新刊絵本の紹介に来られる営業の方の熱気は、書店員にストレートに伝わってきます。 こちらの森洋子さん作『ある星の汽車』は、「あ、きっと名作なんだな」とすぐ感じ取れたことを覚えています。 だからあえて、広告の文言は目を閉じてスルーさせていただきました。 そして、入荷してすぐ購入。金の箔押しで囲われたタイトルに、色数が抑えられた絵。開いた最初のページから、もうその世界に引き込まれました。

月明かりの下を、汽車が走り抜けていきます。

ゴトゴト シュッシュッ
ゴトゴト シュッシュッ

車内には、さまざまな動物たち、そして人間の親子の姿も。 語り合う夫婦、眠る者、食事を楽しむ者。それぞれが同じ空間で、思い思いに過ごしています。

穏やかな旅が続く。

そう思っていました。

ところが、ある出来事を境に、車内の空気は少しずつ変わっていきます。

車掌がひとりの乗客に、耳打ちしていきました。
そして次の停車駅。その乗客がひとり、挨拶をして降りていきました。駅には、ある数字が記されています。
汽車が駅に着くごとに、次々と降りていく乗客たち。 だんだんとぽっかり空いた座席が増えていき、車内は閑散としていきます。
それでも汽車は走り続けるのです。

男の子は父親に問いかけます。

ねえ、おとうさん。
ぼくたちは いつまで のっていられるの?

ここから先の展開は、書かないでおきます。

というのも、「気づく」ことそのものが、この絵本の読書体験の醍醐味だからです。ページを繰るごとに、少しずつ繋がっていく感覚。
そして読み終えた時。

「あ、そういうことか。ということは……」

気づいた瞬間、私はもう一度最初のページへ戻っていました。

繊細な鉛筆画が、美しくも強烈なメッセージを伝えてくれる本作品。落ち着いたトーンの描写のなか、白、金色、赤、緑が鮮やかに映え、絵だけでもじっくり堪能できます。
美しいだけではありません。お話の内容を把握したあと、再び目をやった絵の細部。考え抜かれた緻密な構成と、壮大な世界観に、しばらく言葉が出ませんでした。

国内外で高い評価を得て、数々の賞を受賞されています。

できれば、あらすじも結末も知らないまま、汽車に乗ってみてください。 静かで、少し寂しくて、でも読み終えたあとに月明かりのような余韻がいつまでも残る、そんな旅です。

『ある星の汽車』
作:森洋子
福音館書店

購入の際も、レビューやコピー文などには目を凝らさず!薄目を心がけてください

本を読み終えたあとに読んでほしいインタビュー記事です。
https://book.asahi.com/article/16377998

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