子どもの卒業を迎えた親へ|うれしさと寂しさが交差する心に、寄り添う絵本

子育ての節目に読む絵本を紹介する記事のアイキャッチ(窓辺にいる猫)
子どもが成長し、ひとつの区切りを迎える。
ずっと隣で見てきた私たちの心にも、いつもとは少し違う風が吹き抜ける予感がします。

元出版社編集者で、今は書店の児童書担当である「いとの」が、そんな節目に、大人にこそ響く絵本とことばを綴ります。

子どもが「卒業」を迎えた日。
無事にここまで大きくなったという安堵と、少し遠くへ行ってしまったような寂しさが、同時に胸に広がりました。

手助けする場面はぐんと減り、子どもの日常に生じる決断は、いつの間にか彼ら主導に変わっている。負担も軽くなって喜ばしいはずなのに、親の側には名前のつかない余白のような気持ちが残ります。

  • 子どもが学校を卒業した
  • 親元を離れて暮らしはじめる
  • 成人し、親の手を離れた

こんな子育ての節目にも絵本をどうぞ。
「子どもの卒業」をきっかけに揺らぐ、親の気持ちに寄り添ってくれる絵本を紹介します。
どれも、励ましたり、答えをくれたりはしません。

毎日そばにいた時間が、静かに終わりへ向かう時期。言葉にできない今の思いを、そっと一緒に抱えてくれる優しい絵本たちです。

目次

泣いたっていい——子どもが巣立つ時期の、親の揺れる気持ち

これらの絵本を、「子どものため」に読んでほしいのではありません。
子育てがひと段落し、次のステージへと踏み出す大人にこそ、届いてほしい絵本です。

今回は私自身が何度も立ち止まって読み返す、3冊を選びました。

『わすれていいから』――「猫」に尊敬の拍手を。見送る側に必要な距離感

わすれていいから(KADOKAWA)
作:大森 裕子

近年の絵本業界での、「猫」の存在感はすごい。
2月22日は「にゃん、にゃん、にゃん」の語呂合わせから「猫の記念日」に制定されていて、書店では「猫フェア」が組まれることもあります。
しかしわざわざ集めずとも、児童書コーナーは年中「猫」の表紙で溢れています。

『わすれていいから』が入荷した時も、表紙を見て「猫のお話が増えたのね」くらいに思っていました。
ところがです。
絵本にしては寂しいそのタイトルが気になり読んでみると、思いがけず涙が溢れ、止められず。
まったく内容を把握せず読み始めたので、自分の涙に驚いてしまいました。
かわいい猫さんのお話でも、猫が主役の物語でもありませんでした。


猫の「おれ」と、生まれたばかりの「おまえ」がひとつ屋根の下、暮らし始めるところからお話はスタートします。

いつも一緒だったふたり。
しかしふたりの距離感は、徐々に変化していきます。

「あたりまえ」だと思っていた日常が、決して止まってはくれないこと。
ずっと一緒にはいられない「時の流れ」が、猫の目線で丁寧に描かれていきます。


いない「おまえ」に気づき、つぶやく猫の言葉に泣き、タイトルをもう一度読み、涙が溢れました。

猫のように、実際に子どもが家を出ていく時、静かに、温かく「見守る」姿勢を貫けるだろうか。
子どもの得た新しい世界(テリトリー)に嫉妬せず、「わすれていいから」と手を離せるだろうか。

巣立っていく子どもにとっては、この絵本から受け取れる「子どもとの距離の取り方」が、理想的に思えました。
そして同時に、娘を静かに送り出してくれた自分の両親の気持ちを、今さらながら思い知る機会にもなったのです。

  • 巣立つ子どもの親へ
  • 子育て真っ只中の子育て世代へ
  • そして、かつて親元を巣立った子どもたちへ

一冊でも届いてほしいと切に願う絵本です。
書店でも「卒業する」というキーワードが出てきたお客様には、「一度読んでみてほしい」と勧めています。

また、一人暮らしをする子どもを見送った大好きな友人へ、この絵本をプレゼントしました。

いとの

後日、この絵本をきっかけにおしゃべり。
これまでの子育てを思い出してはウルウルし、子離れできない私たちを笑い合いました。
ーーこれが私の贈る「子離れ応援セット」です。

口を出さず、応援する。
そして、子どもを信じる。

難しいですが、これが送り出す親側の次のミッションなのかもしれません。

私自身も、子どもの巣立ちまで、まさにカウントダウン中です。

子どもを送り出す時、口をぎゅっとつぐんで、心の中でエールを送ってみようと思います。
この絵本を読んだ私は、そこまで大きくない器を広げて(広げたふりして)、少しは頑張れそうな気がします。

『あんなに あんなに』――泣いて笑って、あの頃の子育てが軽くなる一冊

あんなに あんなに(ポプラ社)
著:ヨシタケ シンスケ

子どもはもちろん、親世代にも、年配の方々にも人気の絵本作家・ヨシタケシンスケさんが描く、子育ての絵本です。
「子どもの飽きっぽさ」に驚いたことがきっかけで、生まれた一冊だそう。

「あんなに〇〇だったのに」「もうこんな」
そんなフレーズに重ねて描かれるのは、手を繋いで歩いていた幼い日々から、妻子を連れて帰省する場面まで。
母親の視点で語られる、数十年にわたる子育ての時間が、この一冊にぎゅっと詰まっています。

まるで、我が家の様子を覗き見されていたのでは?
そう思うほど、「うちの子育て」がそのまま描かれていて、びっくり。
「そうそう、こんなことあったね」と記憶をたどりながら、思わずクスッと笑ってしまいます。

かと思えば、ふと目頭が熱くなり、
また笑って、気づけば鼻の奥がツーンとする。

読みながら、そんな「笑って、泣いて」の繰り返し。
まさに子育てと一緒ですね。

思い通りにいかない子育て。
どの家庭も一緒だなと思わせてくれ、
ほっと肩の荷が降りました。

この先もきっと、
「あんなに」と「もうこんな」を
繰り返しながら時は過ぎていく。

うん。そうやって、繰り返していけたらいいなーー

この絵本には、平凡な日々の中にある幸せに気づくタネがちりばめられていて、「子育ても悪くないね」と思わせてくれる力があります。

いとの

まるで「子育てお疲れさまの会」で、子育てを経験した者同士が集まり、思い出の「子育て動画」を泣き笑いしながら眺めているよう。

読後には、そんなほっこりした気持ちになります。

子育てに向いているのかな、私。
大変すぎるよ、母親業。
自分の時間が、ほしいな。

そう思うことも多い子育てですが、
「そのまんまで、全部ハナマル」
そう自分を認めてあげられるような、温かくて、楽しい絵本です。

ちいさなあなたへ――手を離してからも続く、親子の時間

ちいさなあなたへ(主婦の友社)
作:アリスン・マギー
絵:ピーター・レイノルズ
訳:なかがわ ちひろ

母と子の絵本と聞いて、真っ先に思い浮かぶ一冊はこちら、『ちいさなあなたへ』。
アメリカで発売されるやいなや大きな反響を呼び、「アメリカ中の母親を号泣させた」とも言われる絵本『someday』の翻訳作品です。

子どもが生まれてから、成長し、手を離れ、そして子ども自身が歳を重ねていくまで。
親子の長い時間の流れが、静かに、丁寧に描かれています。

大人向け絵本ではありますが、文章はすべてひらがな。
しかもやさしい手描きの文字です。
まるで絵の一部のようにレイアウトされた言葉たちが、読む人の心を、そっと揺さぶります。

書店では、プレゼントとして選ばれる方が多い印象です。

母から子どもへ。
子どもを授かった友人へ。
そして、子どもから母親へ。
「母の日」の贈り物として選ばれていることからも、この絵本が「見送られる側」にも親の愛をまっすぐに伝えていることがわかります。

読む時期や立場によって、胸に迫る場面は変わっていくことでしょう。

手元に置いて、節目ごとに本棚から取り出して読む。
ストーリーそのものと同じように、ゆっくり、長く付き合っていくにふさわしい、定番の子育て絵本です。

見送ったあとも変わらないものーー絵本とともに、次の一歩へ

子どもの「卒業」。

直接手助けをしなくなっても、
毎日会わなくなっても、
子どもを思い、応援する気持ちは、きっと変わらず続いていくでしょう。

その一方で、少しずつ変わっていく子どもとの関係に、親の心にはさざ波が立つこともあります。

そんな時は、その時々の心の波に合わせて、そっと絵本を開いてみませんか。

気持ちを無理に前向きに切り替えるためではありません。
泣いたり、笑ったり、ときには立ち止まったりしながら、絵本と一緒に、今の気持ちを味わうために。

そうしているうちに、少し気持ちも整い、思いがけず背中を押されていることもあります。

子育ての、ひとつの節目を迎えた今。
絵本とともに、これまでの子育て時間を、静かに振り返ってみるのも悪くありません。


子どもの「卒業」を迎えたみなさんへ。

これまでの、「子育てのがんばり」を胸に。
子どもへの「変わらないエール」を心に。
親もまた、少しずつ、次のステージへ。

このページの絵本が、今のあなたに寄り添い、次の一歩へ向かうきっかけになりますように。

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