そっと窓をあけてみたくなる、韓国の絵本|大人に届けたい3冊

「韓国の絵本」のアイキャッチ画像

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音楽に映画、料理にコスメ。新しいブームを次々と日本に連れてきてくれる韓国。その波は、絵本の世界にも届いています。
元出版社編集者で、いまは書店で児童書を担当する「いとの」が、大人にも読んでほしい韓国の絵本を紹介します。

書店には毎日のように新しい絵本が入荷します。そのなかには、海を越えてやってきた翻訳絵本も少なくありません。
韓国発の児童書といえば、「科学漫画サバイバル」シリーズや「つかめ!理科ダマン」シリーズなどの学習漫画が小学生に大人気ですが、絵本も負けてはいません。現地で愛された作品が選ばれて届くだけあって、どれも粒揃い。数年前に書店で韓国絵本のフェアをしたときも、絞りに絞って20作品を超える展開になりました。
今回は、そんな韓国の絵本のなかから、大人にこそ手に取ってほしい作品をピックアップしてお届けします。

韓国を代表する絵本作家ペク・ヒナが描く初の絵童話

『ハッピーバースデイ』(ブロンズ新社)
作:ペク・ヒナ
訳: 長谷川 義史

『ハッピーバースデイ』
作:ペク・ヒナ
訳: 長谷川 義史
(ブロンズ新社)

韓国でいま最も注目されている絵本作家といえば、ペク・ヒナさんでしょうか。自ら「人形いたずら作家」と名乗るとおり、人形製作からセット、撮影までをひとりで手がけ、ほかの誰にも真似できない絵本の世界を作り上げています。2020年には、児童文学のノーベル賞とも呼ばれるアストリッド・リンドグレーン記念文学賞を受賞。日本でも『あめだま』をはじめ多くの作品が愛されています。

そんなペク・ヒナさんの作品のなかでも、とくに大人に読んでほしい一冊が登場しました。絵童話『ハッピーバースデイ』です。

主人公はシマウマのゼブリナ。最近なんとなく気持ちがふさいで、引きこもりがちです。そんな彼女のもとに、おばさんから誕生日プレゼントが届きます。それは不思議なクローゼット。扉を開けると……毎日ちがうコーディネートの洋服が入っているのです! か、かわいい!

日替わりのおしゃれを楽しむうちに、ゼブリナの気持ちは少しずつほどけていきます。友人とお茶をしたり、部屋を掃除したり、自転車をこいだり。

抜け出したいのに、気づけば自分の「気持ちの渦」にはまっている。どうすれば自分を機嫌よくしてあげられるのかすら、わからなくなる。私にも、そんな苦しい時期がありました。このままではいけないとわかっていても、もう進む道はないのでは、と考えてしまうのです。

誰にでもときどきやってくる、ご機嫌ナナメな自分。その厄介な自分をそっとなだめるヒントが、『ハッピーバースデイ』にはたっぷり詰まっています。
それは格好いい名言でも、人生を渡り歩くテクニックや特効薬でもありません。下ばかり向いていた視線を、気づけばふっと上に向かせてくれる、そよ風のようなものです。

不思議なクローゼットから生まれるコーディネートも見どころのひとつ。おしゃれ好きの方なら一層、ページをめくるたびに心が躍るはずです。

翻訳は、これまでも多くのペク・ヒナ作品を手がけてきた絵本作家の長谷川義史さん。大阪弁の訳が多く、関西人の私はついつい声に出して読んでしまいます。今回は、とっておきのプレゼントを贈ってくれたおばさんのセリフだけが大阪弁で、ほかは標準語。そんなハイブリッドな訳も楽しめる一冊です。

そして、いま注目のジャンル「絵童話」であることも、私のお気に入りポイントです。絵と文の良さ両方がたっぷり味わえる絵童話については、こちらの記事で紹介しています。

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レイアウトのアイデアに驚き!すみっこがうらやましくなる絵本

『ぼくのすみっこ』(ほるぷ出版)
作:ジョオ
訳: かみや にじ

縦に細長いこの絵本を開いた瞬間、「こういう手があったか!」と思わずうなりました。絵本作家でもないのに、そのアイデアに悔しくなってしまった作品です。

主役はカラス。どうやら、すみっこが好きなようです。
どのページでもカラスは部屋のすみっこにいるのですが、その部屋の角が、ちょうど絵本の「のど」(左右のページが綴じられている本の真ん中部分)に重なっています。なるほど、ぴったりの見立てです。

編集の仕事をしていた頃は、「のどには絵も文字もかからないよう、必ず余白を空けること」と何度も言われ、細心の注意を払っていたので、本当にびっくりしました。

ベッドを置き、本棚を置き、植物を育てる。カラスはすみっこを居心地のいい空間にしようと、あれこれ工夫をしていきます。ものだけでなく、壁にもきれいな黄色でどんどん模様を描き足して。
やがて黄色い模様は壁一面に広がり、植物もすくすくと葉を伸ばしていきます。すっかり快適になったはずのすみっこ。けれどカラスは「まだ なにか たりない……」とつぶやくのです。

そして、ついにカラスは壁に穴を開けはじめ……。

カラスのすみっこに必要なもの、カラスの心を満たすものとは、いったい何なのでしょうか? 答えは読んでのお楽しみです。

作者のジョオさん自身も、すみっこがいちばん好きなのだそう。あとがきには、ただのすみっこが「特別なすみっこ」になったとたん、「予想もしなかったことがつぎつぎ起きた」と綴られています。
自分の好きなもので、自分の場所をていねいに整えていく。そうしてはじめて、思いがけない扉がひらくのかもしれません。そして、この本をひらく私たち読者もまた、カラスのすみっこをのぞく窓の前に立っているのです。

セリフは最小限に抑え、本の「のど」を最大限に生かした、アイデアいっぱいの韓国絵本。何度もぱらぱらとページをめくりたくなる一冊です。

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語り手は地下鉄!乗客ひとりひとりの人生が見えてくる絵本

『わたしは地下鉄です』(岩崎書店)
作:キム・ヒョウン
訳: 万木森 玲

『わたしは地下鉄です』の表紙画像
『わたしは地下鉄です』
(岩崎書店)
作:キム・ヒョウン
訳: 万木森 玲

わたしはきょうも走ります。どこから来て、どこかへ行くひとたちをのせて

韓国の大都市ソウルを走る地下鉄2号線。その「地下鉄」の目線で語られる物語です。
始まりは、まるで映画のよう。モノクロで描かれたどこにでもある車内の風景が、地下鉄が語り出したとたん、ぱっと色づきはじめます。

改札を猛ダッシュで駆け抜ける会社員、受験勉強の真っ最中の女の子、娘と孫のために海の幸を抱えた海女のおばあさん。
地下鉄という空間にたまたま乗り合わせただけの人々ですが、地下鉄の語りによって、ひとりひとりの物語が鮮やかに浮かび上がってきます。

トンゴトン トンゴトン
ゴトン ゴトン ゴトン ゴトン

心地よい電車の進む音に見守られながら、人々の毎日は続きます。
それぞれの日常、それぞれの物語を乗せて、毎日走り続ける地下鉄。

韓国と日本は近いだけあって、やっぱり似ているなと感じる場面がたくさんあります。一方で、人や駅の名前、暮らしのあちこちには異国の香りも。似ているけれど、ちょっと違う。お隣の国ならではの楽しみ方ができる作品です。

窓から差し込むやわらかな光と、市井の人々の人生をていねいに照らす「地下鉄」の語り。その空気感がたまらない、大好きな一冊です。

なぜか、長らく会えていない大切な人に会いたくなります。じんわりと伝わってくるこの絵本の良さは、大人のほうが受け取りやすいかもしれません。

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